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風呂について

自分は温泉、銭湯好きである。学生時代には石山修武さんが都市の再生という課題を出した時、銭湯の改修を提案した。また、温浴施設の設計を手がける事務所で働いていた事もあり、よく見学を兼ねて風呂に入りにでかけて行った。石や檜を使い、庭や大自然に開かれた野天風呂の図面や写真やらを見続けて、自分もいかに快適な浴場空間を作るか、思いを巡らせる事もあった。

自分の実家は祖父が事業で一旗揚げ、当時近所では成金屋敷と噂されるほどで、鉄骨とモルタルを組み合わせた近代的な家だった。浴室はタイル張りのFRP浴槽で、50年前当時では広い洗い場とシャワー付で最先端のものだった。けれど、忙しく掃除が苦手な母のせいでタイル目地は黒カビだらけ、敷きっぱなしの足拭きマットの床下には、いつしか白アリが巣を作り、さらに一般的な給湯設備では物足りず、妙に人の使わない物を使いたがる父が選んだボイラー式の給湯設備のせいで、築15年後にはとても奇妙な風呂になっていった。高校生まで7人家族で最後の湯に浸かるのは自分だったが、よくあんな風呂に辛抱したものだ、と思う。
その後、一人暮らしの時代はユニットバスの中にトイレが付属していて、ゆっくり入れる風呂なんて夢の代物だった。けれど真っ白で掃除がし易く、防水がしっかりしたユニットバスの便利さは体感できた。
毎日、掃除をしても汚れがたまり、カビが発生する浴室。キレイを維持するには手入れが欠かせない。では一体だれが?我が家では自分しかいないのである。母の二の舞になってはいけないが、果たしてちゃんと掃除できるのか。
自宅を設計する際に、在来工法で素敵にタイル貼りする事やハーフユニットで天井にサワラを使うのも考えたが、祖母の家で檜の浴槽が朽ちていくのを見たり、実家の在来工法でもメンテナンスが悪い為に悲惨な状況になったのを見ると、ユニットバスでも、毎日清潔に掃除され、いつでも給湯可能なガス給湯機、それで十分だと、Panasonicのユニットバスに決めた。
幸い、北側の窓からの眺めは最高で、夕焼けも眺められる。透明な強化ガラスのドアのお陰で子供達だけでも安心して入れる。
子供たちは水鉄砲で遊び、天井や壁やらドアやら、あちこちに水をかけても、寛容でいられる。